新型コロナウイルスの感染防止を目的として、政府から「新しい生活様式」の実践例が発表されたのは記憶に新しいかと思いますが、その中の「働き方の新しいスタイル」として以下の記載があります。
「名刺交換はオンライン」
思えば、ビジネスにおける名刺の存在は非効率の典型とも言えます。
仕事のスケジューリングやタスク管理などはデジタルで行われるのが当たり前となった現代において、こと名刺に関しては21世紀の現代になっても依然として紙のままのやり取りが行われています。
「あの人あったことあったかな?」「あの会社の名刺はどこだっけ?」と机の中をあさっている様子を見かけることも少なくありません。
名刺の管理や活用方法に関しては効率化の大きな余地があります。
この名刺の管理に目を付けたのがSansan<4443>です。
今回はビジネスシーンの中心に位置する名刺というもののあり方に大きな変革を起こそうとしている同社の可能性を考えてみたいと思います。
名刺管理には効率化の大きな余地がある
名刺はビジネスパーソンが使っているあらゆるツールの中で最強のソーシャルツールと言えるでしょう。
名刺は人と人の出合いの証であり、資産でもあります。
企業にとって、この資産を共有することには明らかなメリットがあります。
自分が直接関わったことのない企業の担当者の名前や連絡先について、これまでは周りの同僚やさらに別の同僚へと人づてに聞き回るということも少なくありませんでした。
それが、名刺が共有され人脈情報がデータベース化されることで、企業のすべての社員がその情報にアクセスすることができるようになります。
上記のような煩わしく非効率な作業から解放されるのです。
こうした名刺にせよ、以前の記事で取りあげたビジネス上の知見にせよ、実は企業というのは社員ひとりひとりが所有しているビジネス上の人脈や情報をそこまで深く把握したり共有できているわけではないのです。
こうした個人管理されている資産を会社として共有していくことは、ビジネスの機会を最大化し、また業務の効率化にも大きく貢献するはずです。
名刺管理サービスで名刺を企業の資産に変えるSansan
アナログだった名刺管理をデジタル化する、そんな課題に挑戦している企業がSansan<4443>です。
「それ、早く言ってよ〜」のTV CMでも有名で、TV CMで同社やそのサービスを知った方も多いのではないでしょうか。
少し余談になりますが、同社の社名の「Sansan」は日本語の「〇〇さん」から来ているものだそうです。
日本では人を敬称で呼ぶときに相手の名前の語尾に「さん」をつけるというのが礼儀ですが、この「さん」という言葉は最も有名な日本語のひとつだと言われています。
ビジネスパーソンにとって名刺は人と人のつながりを示す証であり、この人と人、つまり「〇〇さんと〇〇さん」が同社の社名の由来であるとのことです。
同社のサービスは法人向け(BtoB)サービスの「Sansan」と個人向け(BtoC)サービスの「eight」がありますが、いずれもクラウド上の名刺管理サービスであり、スマートフォンで名刺の写真を撮るだけで名刺情報がデータ化されてクラウド上でその情報を管理できるというものです。
また、この名刺情報をAPI連携により様々な外部ソリューションと連携することも可能です。
非常にシンプルではあるものの確実に企業にとって恩恵があるサービスであると言え、それを如実に表しているのが同社の法人向けサービス「Sansan」の解約率です。
「Sansan」の直近12ヶ月平均解約率は1%を切っており、これは驚異的な低さと言えます。
同社のサービスが企業にとってまさしく「インフラ」として機能していることを意味しています。

図1:Sansan 2021年5月期 第1四半期決算説明資料 P12抜粋
日本を代表するSaaS企業としての可能性
同社のサービスは「SaaS」と呼ばれるものです。
SaaS(Software as a Service)とは、ユーザーのPCにソフトウェアをインストールして利用するのではなく、クラウド上で稼働しているソフトウェアをユーザーが利用できる形態のサービスのことです。
このSaaSはサブスクリプション型のビジネスモデルであり、株式市場では近年大変注目を浴びているビジネスモデルです。
「売ったら終わり」という売り切り型のビジネスモデルとは違い、ユーザーが利用し続ける限りは支払いが続くというビジネスになりますので、企業にとってはいかにユーザーに自社のサービスを利用し続けてもらうか、つまり解約率の低さが重要なわけです。
その観点からみれば、同社の解約率の低さは賞賛に値します。
解約率が仮に0%であったとすれば、たとえ全く営業活動をせず新規獲得顧客がゼロであったとしても前期と同水準の売上高を確保できるということになります。
同社の解約率はこれに匹敵するレベルですので、いかに同社のビジネスモデルが強固なものであるかがわかっていただけるかと思います。
また、解約率の低さを維持しているだけでなく既存顧客の売上高(ARPA)も順調に伸びています。

図2:Sansan 2021年5月期 第1四半期決算説明資料 P11抜粋
SaaSのビジネスでは解約率(チャーンレート)に加えNRR(Net Retention Rate)という指標も重要で、これは簡単に言うと売上継続率のことです。
低い解約率を維持しつつ、かつ既存顧客の課金額も増えている、そんな同社の業績は順調に推移すしていると言って差し支えないでしょう。
とは言え、同社の今期の業績予想(売上高:157~163億円、営業利益:7.5~10億円)に対し、現状の2,000億円超の時価総額というのは株価バリューとしては割高感が否めません。
大変強固なビジネスモデルではありますが、同社の現在の株価水準はすでに市場から十分な評価を受けているという印象です。
同社が上場したのは1年ほど前になりますが、もしもこれが5年前なら面白かったのかもしれません。
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