ベースボールの本場である米国のメジャーリーグ(MLB)に対して、皆さんは一体どのようなイメージをお持ちでしょうか。
メジャーリーグは力と力の豪快な勝負、対して日本のプロ野球(NPB)は緻密な駆け引き、なんとなくそのようなイメージを抱いている人が多いかもしれません。
確かに、力と力の真っ向勝負はメジャーリーグの醍醐味のひとつです。
しかしながら、それ以上に近年のメジャーリーグを象徴しているのは圧倒的なまでのデータ分析であると言え、日本とは比べ物にならないほどデータの収集やその活用が進んでいます。
いわば「野球の合理化」を徹底しているとも言えるメジャーリーグの野球は、おそらく競技としてのレベルは昔に比べれば格段に向上しているのでしょう。
しかしながら、この合理化によって、野球本来が持っていた競技としての魅力が損なわれてしまっているような気がしてなりません。
合理化の取組みで先を行くメジャーリーグから、合理化の流れとその弊害を考えてみます。
野球のプレーにおける最適解とは何か
アメリカは合理主義の国であり、野球に対してもこのように合理的に物事を捉えようとしているように思えます。
野球を「確率のスポーツ」とみなし、その確率や期待値を高めるために徹底的なデータの分析や数値化が進められています。
では、このような視点でみたときの野球のプレーにおける最適解とは一体何でしょうか。
フライボール革命
あくまで数字だけで野球を語るのであれば、打者にとっての打席での最高の結果がホームランであることに疑いの余地はないはずです。
単打よりも長打のほうが、そして長打の中でもホームランは得点貢献が高いことは周知の事実です。
ですから、現在のメジャーリーグで主流となっている打撃スタイルは、この長打、ホームランを打つためのバッティングです。
強いスイングでもっともホームランになりやすい角度に速い打球を打ち上げる、俗に言う「フライボール革命(フライボールレボリューション)」であり、数年前にメジャーリーグを席巻した理論です。
メジャーリーグにおいて、このフライボール革命が流行したのには様々な要因があります。
投手のレベル、特に投手の投げるボールの球速は年々向上しています。
打者からすれば、そのような現代の投手相手にヒットを積み重ねていくことは並大抵のことではありません。
ヒットを積み重ねるよりも、甘い球を一撃で仕留めるほうが得点の可能性が高いという考えから、少々確率が落ちても長打を打つことに特化したスイングをするようになってきています。
また、守備シフトの普及がその傾向に拍車をかけています。
近年のメジャーの試合では、守備側が打者ごとにその打者の打球傾向に合わせて守備シフトを敷く(守る位置を変える)というのがもはや当たり前の光景となりつつあります。
野手の間をきれいに抜けていく打球を打つことは、これまで以上に困難なものとなってきています。
その結果、打者はこのシフトを破るためにシフトを超える打球を打つ、すなわち打球を打ち上げることを徹底するようになっているのです。
三振の激増
一方、投手にとっての最高の投球結果は奪三振であると言えます。
もっとも、これに関しては異論もあるはずです。
近年は「投手の肩は消耗品」という考え方が定説となりつつあり、投手には少ない球数で打者を抑える能力やピッチングスタイルといったものも求められています。
その観点から言えば、最低3球必要となる奪三振に比べて、1球で打者をアウトにできる可能性のあるゴロアウトやフライアウトのほうが優っているという見方もあります。
しかしながら、投手は自身の投げたボールの行方はコントロールできたとしても、打者が放った打球の行方まではコントロールできません。
打者がインフィールドに打ち返した打球がヒットになるかどうかは投手の能力にはほとんど依存しないことが、これもやはりデータによって実証されています。
また、先程述べた通り、近年の打者の打撃スタイルはフライ系の打球を打つというものです。
そのため、バットに当たってしまいさえすれば、その打球がホームランになるリスクは常につきまといます。
そのリスクを避けるためにも、投手にとって三振を奪うことはもっとも有効な対策手段と言えるのです。
また、打球を打ち上げるためのスイングとはバットを下から出すアッパースイングのことであり、必然的に空振りや三振も増えることになります。
すなわち、投手は打者から三振を奪うことをより意識し、打者も三振覚悟で長打やホームランを狙ってスイングをするというのが近年のメジャーリーグの大きなトレンドであり、その結果として、近年のメジャーリーグにおける三振数は劇的に増加しているのです。
ホームランか三振か
このようにデータを駆使して合理化が進められた結果、メジャーリーグの野球はきわめて極端なものとなりつつあります。
野球の全プレーに占めるホームランと三振の比率は年々増加し、一方でインフィールドに打球が飛ぶ機会は大きく減少しています。
野球の醍醐味である心理的な駆け引きや、スピード感あふれる走塁や守備の攻防といった場面を見る機会は減ってきています。
また、この影響で選手の個性も失われつつあります。
近年のメジャーでは、1番から9番までのすべての選手が同じような打撃スタイル、同じような方向性を目指しているといっても過言ではありません。
かつて我々が抱いていた打順ごとの役割のイメージはもはや過去のものとなりつつあります。
このように、合理化によって競技としてのレベルは上がったのかもしれませんが、それは野球本来が持っていた競技としての魅力を損なわせてしまっているような気がしてなりません。
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