ビジネスにおける論法の基本は結論→根拠です。
ですから、その根拠を示す、または残すことは非常に大事なことです。
実際、仕事ではエビデンス(客観的根拠)やファクト(客観的事実)、数値化という用語が頻繁に用いられています。
ところで、エビデンス、すなわち「客観的な根拠」という言葉はよく使われますが、この「客観的な根拠」とは一体とはどのようなものを言うのでしょうか。
今回はこの「客観的な根拠」について考えてみます。
客観的な根拠とは確度の高い根拠?
数学の証明は「完全無欠の証明」です。
数学的な証明は、以下のようなプロセスで行われます。
典型的な数学的証明は、一連の公理から出発する。公理とは真であると仮定された命題、あるいは真であることが自明な命題のことである。そこから一歩一歩論理的な議論を積み重ねていって結論にたどり着く。公理が正しく、論理が完全であれば、結果として得られた結論を否定することはできない。こうして得られた結論が定理である。
引用:サイモン・シン 青木薫著、フェルマーの最終定理、新潮文庫、P57
一度証明された定理は永遠に真であり、覆ることはありません。
数学の証明は絶対的なものです。
この点で、数学的証明は、その他のあらゆる証明とは一線を画しています。
科学的証明ですら、数学的証明に比べれば劣っていると言わざるを得ません。
数学的証明を除くありとあらゆる証明と呼ばれる類のものは、あくまで「この理論が正しい可能性がきわめて高い」と言っているのに過ぎないのです。
当然、その正しい可能性の高さ(確度)には、証明(根拠)ごとに大きな差があるわけです。
客観的とは主観的の対義語であり、主観が入りこむ余地が一切ないということをふまえれば、数学の証明などはそれこそ究極の客観的な根拠であると言えるような気もします。
では、このように確度の高い情報を基にした根拠こそ客観性の高い根拠と言えるのでしょうか?
客観的とは第三者の見方
上記の問いかけについて、私は必ずしも確度の高い情報を基にすることが根拠の客観性を高めることにはつながらないと考えています。
客観的とは第三者の立場から見たときの視点、すなわち、客観性の高い根拠とは第三者の人たちからみて多くの人たちが納得できる根拠のことです。
確度の高い根拠、それこそ先ほど述べたように数学的な証明を根拠としていたとすれば、それは主観の入り込む余地がないわけで、誰もが納得せざるを得ないものと言えるでしょう。
しかしながら、ここで一つ問題が生じます。
その根拠を理解できるかという問題です。
実際、かの有名なフェルマーの最終定理は、その定理自体は一般人でも理解できるものである一方、その証明を理解できる人は数論に携わる研究者の中ですらごくわずかであると言われています。
もちろん、我々が仕事の中で何か自身の主張や意見に対してその根拠を提示する際に、さすがに数学的証明を根拠に用いることというのは、(そうした仕事に就いている人でなければ)まずないでしょう。
ですが、専門性の高い話、たとえばある製品の性能が優れていることの根拠を説明する際に、技術者がその作りこみの部分を事細かに説明したとして、その内容を技術者ではない人たちが果たして理解できるでしょうか?
それは確かに確度の高い根拠であるかもしれないけれども、その根拠をほとんどの人が理解できないということが起こりかねないのです。
客観的な根拠の難しさ
一方で、その製品の性能に関するテストをしてその性能が確かに優れていることを結果で示す、このような根拠であれば、技術的な知見がない人たちであってもその内容を理解することはできるでしょう。
もちろん、このような根拠の確度が高いとは決して言えません。
たとえば、製品を構成する部品のばらつきなどでもその性能は大きく変動する可能性があります。
ですから、その確度を高めるために、テストの施行回数を増やしたり、また必要に応じて統計的な手法も用いて分析するわけですが、それでも技術者がそういった部品レベルのばらつきも考慮しながら技術的・論理的に構築していった根拠のほうが確度としてはおそらく高いでしょう。
ビジネスの現場で求められる客観的な根拠には、確度の高さに加えてわかりやすさ、すなわち万人により受け入れられる形での根拠が求められていると感じます。
極端な話をすれば、確度は極めて高いが100人のうち1人しか理解できない根拠よりは、それよりも確度は劣るけれども100人中99人が理解できる根拠のほうが、おそらく大多数の現場では受け入れられるものとなるでしょう。
とは言え、別にすべての人たちがこういった根拠を追い求めていく必要はないとも思っています。
それこそ、技術者の人たちは、凡人には理解できなくても構わないから技術を追求して真理に近い確度の高い根拠を追い求めていっていいと私は思っています。
そのような決して本質的ではない事務仕事を請け負うのが今の私の仕事です。
今回はそのお話をさせていただきました。
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