新型コロナウイルス検査の問題点の偽陽性・偽陰性とは?【検査陽性のパラドックス】

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新型コロナウイルス感染を判定するPCR検査を拡大すべきかどうかで議論が起こっているようです。

その件に関して議論するつもりは全くないのですが、この手の議論につきものなのが検査における偽陽性(または偽陰性)をどのように捉えるべきかという問題です。

この偽陽性または偽陰性という言葉、皆さんはご存知でしょうか?


そこで、今回はこの偽陽性・偽陰性の解説と、この偽陽性に関する有名なパラドックスをご紹介させていただきます。

罹患率が低い病気の検査で陽性と診断されたときに本当は病気でない確率というのは、実は我々が直感的に考える確率よりもずっと高い確率です。

検査を安易に受けさせるべきではないという意見が出るのも、このためなのです。

偽陽性・偽陰性とは?

臨床検査の精度を表す指標として、感度特異度があります。

感度 :病気のある人を正しく陽性と判定する確率(下の表のa / (a + c)
特異度:病気のない人を正しく陰性と判定する確率(下の表のd / (b + d)

検査の精度には限界があり、実際には病気がないにもかかわらず陽性となる、または病気があるにもかかわらず陰性となるケースがあります。

これらを偽陽性偽陰性と呼びます。

偽陽性: 病気のない人を陽性と判定すること (下の表のb
偽陰性: 病気のある人を陰性と判定すること (下の表のc


病気
あるない
検査陽性ab
陰性cd

偽陽性が出る確率

この偽陽性についてですが、検査で陽性と診断されたときにそれが偽陽性である確率(本当は病気でない確率)というのは、実は我々が直感的に考える確率よりもずっと高い確率です。

PCR検査を安易に受けさせるべきではないという意見が出るのも、この偽陽性が出る確率が高いからなのです。


そのことをわかりやすく示したのが以下のクイズです。

ぜひ一緒に考えてみてください。

1万人に1人が患う病気の検査をしたところ、陽性が出てしまった。

この検査の精度は99%ということである(感度、特異度ともに99%と仮定する)。

このとき、あなたが本当に陽性である確率は何%か?

(この問題は、三浦俊彦さんの著書「論理パラドクス」という本の「遺伝子検査」という問題を参考にさせていただきました。)

参考文献) 
三浦 俊彦、論理パラドクス―論証力を磨く99問、 二見書房 、2002、202p

検査の精度=病気である確率ではないことに注意

検査の精度が99%なのだから99%の確率で本当に病気だと考えたあなた、これは間違いです。

検査の結果が陽性であったということで、今知るべき確率は陽性が出る人の数(= a + b)のうち本当に病気がある人の数(= a)、つまり下の表でいうとa / (a + b)の確率を求めればよいということになります。

病気
あるない
検査陽性ab
陰性cd

この表にクイズの条件を当てはめていくと次の表のような結果となります。
(計算を簡単にするため、100万人あたりの人数で算出しています。詳しくは、下のMEMOをご確認ください。)

病気
あるない
検査陽性999999
陰性1989901

1万人に1人が患う病気であるため、100万人あたりで計算すると病気のある人は100人、病気でない人は999,900人。

検査の精度(感度・特異度)が99%ということで、病気のある100人のうち正しく陽性になる人は99人(99%)、陰性となる人は1人(1%)。

一方、病気のない999,900人のうち正しく陰性になる人は989901人(99%)、陽性となる人は9999人(1%)。

・・・といったように計算していきます。


この表に従って計算していくと、この検査で陽性になったときにあなたが本当に病気である確率は99 / (99 + 9999) = 0.98 ≒ 1%となります。

つまり、依然としてあなたは病気を患っていない確率のほうがずっと高いのです。


この現象は検査陽性のパラドックスとして広く知られており、罹患率の低い病気の検査で陽性反応が起きた時に生じるパラドックスです。

一見すると、珍しい病気で陽性になったのだからこれはもう病気であることに間違いないと思いがちですが、実際には逆で、珍しい病気であればあるほど陽性となった場合に本当に病気である確率は低くなるのです。


ですから、むやみやたらに検査を行うのではなく、病気を患っている可能性が高いと考えられる人だけに対象を絞って検査を進めていくというのは、非常に理に適っていると言えるのです。

パラドックスで論理性を磨く

このクイズの場合、もしも「病気である場合の陽性になる確率」を問われているのであればこれは感度のことで表のa / (a + c)で確かに99%です。

でも、クイズで問われているのは「陽性になった場合の病気である確率」で、これは表のa / (a + b)のことで全く違う確率です。

人間の直観が当てにならない、典型的なパラドックス(直感との逆説)ですね。


こうしたパラドックスやジレンマの問題からは、論理的思考とライティングの大切さを学べる(条件を丁寧に書き出していけば解ける)ので、今後も定期的に紹介していきたいと思います。

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