過去にも何度か記事として取り上げてきましたが、私は会社の人事評価制度に対して不満を持っています。
会社の人事評価というのは大変客観性に乏しいものであると感じています。
では、そもそも客観的な人事評価とは一体どのようなものを言うのでしょうか。
それを考えるにあたって、私が参考になると思うのが野球におけるデータ分析の分野で使われているセイバーメトリクスです。
今回は、このセイバーメトリクスを例として、客観的な人事評価とはどのようなものかを考えてみたいと思います。
セイバーメトリクスとは?
セイバーメトリクスは、野球の様々なデータを統計学的な見地から分析していく手法です。
野球好きの方であれば、すでにご存じの方も多いかとは思います。
また、野球はあまり詳しくないという方でも、2011年に公開されたブラッド・ピット主演の映画「マネーボール」をご覧になったという方であれば、この言葉にピンときた人も多いのではないでしょうか。
このマネーボールで取り扱っているテーマがセイバーメトリクスで、当時はあまり球界に浸透していなかったセイバーメトリクスを活用したチーム編成を行い、MLB随一の貧乏球団をプレーオフ常連の強豪チームに作り上げていく様を描いたヒューマンドラマです。
野球は数字や統計ときわめて相性が良いスポーツ
野球は数字や統計との相性がきわめて良いスポーツであると言えます。
たとえば、野球選手の凄さを誰かに伝えたいときに、あなたはどのようにその選手の凄さを伝えるでしょうか。
仮に、「あの選手はバッティングが上手い」だとか、「凄い球を投げる」といったような説明をした場合、実際にそのプレーを見ないとその凄さは伝わりませんよね。
でも、「あの選手は3割打った」とか、あるいは「10勝したピッチャー」だといった説明をすれば、そのプレーを見たことのない人たちにもその選手の凄さは伝わるはずです。
このように、もともと野球には選手の能力や貢献度を定量的に数値で表現する慣習があります。
セイバーメトリクスは、このような選手の能力や貢献度の数値化のプロセスを統計的な見地からより客観的にしたものと言えます。
セイバーメトリクスの意義
セイバーメトリクスには、大別すると以下のような意義があると考えられます。
過小評価されている能力に焦点を当てる
一般に、打者のヒット(安打)を打つ能力は高く評価されます。
その一方で、野球というのは9イニング27個のアウトを取られるまでの得点を競うスポーツと言えますので、この観点からすれば打者に求められる最も重要な要素はアウトをとられない能力であると言えます。
そのように考えた場合、確かにヒットを打つこともアウトにならないための打者のアプローチのひとつではありますが、四球を選ぶことも同じくアウトにならないためのアプローチのひとつです。
実は、セイバーメトリクスが普及する以前には、打者の四球を選ぶ能力というのはあまり評価されていませんでした。
ですが、その貢献度から考えれば、四球を選ぶ能力はヒットを打つ能力にひけをとらない価値があると言えるのです。
外的要因に左右されにくい指標を明らかにする
たとえば、投手の勝ち負けというのは味方の得点力やめぐりあわせといったものに大きく左右されます。
たとえ自分が相手の得点を1点に抑えたとしても、味方が得点できずに負けることもあります。
逆に、自分が5点取られたとしても、味方が6点以上得点してくれて勝つこともあります。
このように、投手の勝利数というのは相手投手や味方の打線との巡り合わせなどといった外的要因の影響を受けやすく、選手本来の能力や責任を示すという意味では不完全な指標であると言えます。
そうした指標を使うよりも、選手自身の能力に深く結びついた指標を用いて選手を評価するほうが、長期的にみれば安定した編成につながるのです。
主観に左右されない公正な評価につながる
野球における守備の能力というのはきわめて印象(主観)に左右されやすいものです。
たとえば、ある打球を「簡単に処理した選手」と「ダイビングキャッチした選手」、果たしてどちらのほうが優れたプレーをしたと言えるでしょうか。
おそらく、多くの人が後者の「ダイビングキャッチした選手」のほうが凄いプレーをしたように感じてしまうはずです。
しかしながら、もしかしたら両者が処理した打球の質(飛んだコースや打球の速さ)自体に差はほとんどないかもしれません。
つまり、全く同じような打球を処理したのに、我々は選手の振る舞いだけを見て両者の成果に異なる評価を下してしまうかもしれないのです。
それは主観による認識の誤り以外の何物でもありません。
セイバーメトリクスでは、このような人間の主観を排除した選手のプレーの真の貢献度を評価することをひとつの目的としています。
野球選手の評価から学ぶ公正かつ客観的な人事評価
これらの話は会社員の評価にも大いに当てはまるところがあるはずです。
「仕事を難なくこなす社員」と「大変そうに働く社員」、あるいは「定時帰りの社員」と「残業続きの社員」では、後者の「大変そうに働く社員」や「残業続きの社員」のほうが高く評価されがちです。
ですが、本当にそのような評価の仕方は正しいのでしょうか。
真にみるべきは「人の働きぶり」ではなく「こなしている仕事」のほうなのではないでしょうか。
また、仕事の成果を評価するにしても、個人間の仕事量や仕事の難易度に明らかな差があることも珍しくありません。
成果の有無は、個人の頑張り以上に与えられた仕事や外部環境によるところが大きいと感じます。
簡単な仕事を与えられた人たちが得をして、難しい課題を与えられた人たちが損をするような評価制度になっていてはいけません。
ですから、我々会社員の世界においても、少しでもこうした主観的な要素を排除する、または外的要因の影響を少なく見積もる人事評価の制度というものを検討していくべきだと思います。
正当な人事評価は個人の仕事意欲の向上につながるものであると私は信じています。
【セイバーメトリクス指標の解説はこちらから】
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