スタットキャストの打撃指標「Hard%」「Barrels」とは?【打球の質の評価】

この記事は約7分で読めます。

セイバーメトリクスは、野球の様々なデータを統計学的な見地から分析していく手法です。

一方で、近年では、野球のプレーそのものから選手の真の実力や価値を評価していこうという流れに移行しつつあります。

今回は、野球における様々なプレーをデータ化するシステム「スタットキャスト」により得られる打撃指標「Barrel」や「Hard%」について紹介させていただきます。

データ分析の対象は「結果」から「過程」に

野球のデータ解析のあり方が近年変わりつつあります。

野球のデータ解析システム「スタットキャスト」の登場により、データ分析の対象はスコアブックに記録されるような「結果」からその「過程(原因)」に移行しつつあり、投球や打撃、走塁、守備といった野球のプレーそのものの可視化、数値化が進められています。

(スタットキャストについては下の記事を参考にしてください。)

【参考記事】


この中でも、今回はスタットキャストにより得られる打者の評価指標について説明していきたいと思います。

スタットキャストから得られる打者の打撃指標

スタットキャストにより取得されたデータはMLB公式サイト「Baseball Savant」から誰でも自由に見ることができます。

上記のサイトの上のメニューの「Leaderboards」からはバッターやピッチャーに関する様々な指標を確認することできますが、この中の BATTING-Exit Velocity & Barrels をクリックしてページに飛ぶと、以下のような指標が並んでいます。


  • Exit Velocity (MPH)
  • Distance (ft)
  • Hard Hit
  • Barrels


これらの指標は打者が放った打球に関する指標です。

以下に、これらの指標が表す打球の特性についてまとめます。


  • Exit Velocity (MPH) :打球速度(平均または最大)
  • Distance (ft) :飛距離(平均または最大)
  • Hard Hit :95マイル (MPH)以上を記録した打球の数・確率
  • Barrels:バレルゾーンに飛んだ打球の数・確率



Exit Velocity (MPH)

Exit Velocity (MPH)打球速度のことです。

その選手がそのシーズンに記録した打球の最高速度(Max)や平均速度(Avg)、またフライボール/ラインドライブ時の打球速度(FB/LD)、ゴロボール時の打球速度(GB)を確認することができます。

Distance (ft)

Distance (ft)打球の飛距離のことです。

その選手がそのシーズンに記録した打球の最長飛距離(Max)や平均飛距離(Avg)、またホームランとなった打球の平均飛距離(Avg / HR)を確認することができます。

Hard Hit

Hard Hit強い打球(95マイル (MPH)以上を記録した打球)のことです。

その選手がそのシーズンに95マイル以上の打球速度を記録した回数(95MPH+)や、それがフェアグランドに飛んだ打球のうちの何%だったのか(%) を示す指標です。(Hard%とも呼ばれます。)

Barrels

Barrelsとバレルゾーンに飛んだ打球のことです。

各打者がどれだけの回数このバレルゾーンの打球を打ったか()、またはフェアゾーンに飛んだ打球のうちの何%がバレルゾーンの打球であったか(Brls/BBE %)を示す指標です。


(バレルゾーンとは一体どのようなものかについては後ほど説明させていただきます。)

打球の強さと得点貢献度の関係性

このように、スタットキャストのデータからは打者が放った打球の速度や飛距離などといった打球の強さを知ることができます。

このような打球に関する指標が近年注目されるようになってきています。

それは、この打球の強さと得点貢献度に強い相関性が見られるからです。


このことは感覚的にも理解できるでしょう。

仮に全く同じコースに飛んだ打球であっても、打球速度の違いにより野手が追いつける or 追いつけないの結果に差が生じることは容易に想像がつくはずです。


それは統計的にも明らかで、打球の速度とその打球がヒットになる確率には明確な相関性があるというデータが出ています

下の図は「ベースボール・ギークス」さんのサイトから転載した打球速度と結果割合の相関図です。

図:打球速度別の結果割合(出典:ベースボール・ギークス)


打球速度が速いほどその打球はヒットになる確率が高く、とりわけ得点との相関性の高い長打(二塁打・本塁打)が生まれる確率が高くなることがわかります。

バレル(barrel)は打球の速度と角度に着目した指標

もうひとつ、打球の質という観点で重要な要素があります。

それは打球の角度です。


仮にどれだけ鋭い打球を飛ばしたとしても、打球の角度がつかなければ長打になる確率は低くなります。

同じヒットであっても(状況にもよりますが)基本的には単打よりは二塁打、二塁打よりは本塁打のほうが望ましい結果であるはずです。

ですから、打撃のアプローチとしては打球角度を意識していくことも大切です。


この打球角度と前述の打球速度に着目した指標がバレル(Barrel)です。

バレルとは打球速度と打球角度の組み合わせで構成されるゾーンのことで、このバレルゾーンに飛んだ打球(バレルな打球)は長打になる確率がきわめて高くなります


ですから、このバレルゾーンに飛んだ打球というのは、いわば野球において最も理想的な打球(最も価値の高い打球)のことであると言えるのです。

Hard%やBarrelsにより打者の打撃の質が明らかになる

このように、打者が放った打球の質に関する情報が手に入ることで打者評価のアプローチにも変化が出じます

野球は確率のスポーツであり、その結果は選手自身の能力だけでなく、相手の能力や運といった外的要因にも大きく左右されるものです。

また、試行回数が少ないうちは確率的な偏りが生じる可能性も十分考えられるでしょう。

(サイコロをふったときに各目の出る確率は均等に6分の1のはずですが、試行回数が10回や20回程度では出る目に偏りが出じることは十分ありえます。)


これに対して、打者が放った打球の質に関する指標は比較的少ない試行回数で打者の純粋な能力を見極めるのに有効であると言えます。

打球速度は打者の能力を図るには非常に有効な指標です。

たとえ打撃成績は芳しくなかったとしても、コンスタントに強い打球を打てているのであれば今はアンラッキーなだけ、いつかはその打球の質に結果がついてくる、そのように判断することもできるのです。


また、こうした打球傾向が明らかになることは選手のパフォーマンスの改善にもつながります。

バレルな打球は打者が放つ打球としては最も価値の高い打球であり、そのため究極的には打者はこのバレルゾーンの打球を打つことを追求していくべきであると言えます。

そのための打撃のメカニックの研究などが現在の野球界では大きく注目されるようになっています。


コメント

タイトルとURLをコピーしました