ベースボールの本場である米国のメジャーリーグ(MLB)では、膨大なデータの分析や活用が進んでいます。
近年では、野球のデータ解析システム「スタットキャスト」の登場により、データ分析の対象はスコアブックに記録されるような「結果」からその「過程(原因)」に移行しつつあり、投球や打撃、走塁、守備といった野球のプレーそのものの可視化、数値化が進められています。
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今回は、このスタットキャストのデータに基づくスタットキャスト指標「xBA」や「xwOBA」について紹介させていただきます。
スタットキャストにより可視化される打球の質
スタットキャストにより測定できる項目数は実に80項目以上にも上ります。
このスタットキャストにより、打者が打ち返した打球の「打球速度」や「打球角度」、「打球距離」などを測定することができます。
最近の研究により、打球の強さ(速度)とその打球がヒットになる確率には相関性があることや、長打になりやすい打球速度✖️打球角度(バレルゾーン)の関係性などが明らかになっています。
そのため、このような打球の質を基にして打撃成績または投球成績の期待値というものも予測することができるようになりました。
このスタットキャストにより取得された打球の質から予測した打撃成績の期待値がxBAやxwOBAなどのx(Expected:期待値)系の指標となります。
スタットキャストの指標「xBA」「xwOBA」とは?
スタットキャストにより取得されるデータはMLB公式サイト「Baseball Savant」から誰でも自由に閲覧することができます。
上記のサイトの上のメニューの「Statics」では、バッターやピッチャーに関する様々な指標のランキングを確認することができますが、このランキングには以下のような指標が並んでいます。
- xBA
- xSLG
- xwOBA
- xOBP
- xISO
- Avg EV(MPH)
- Avg LA(°)
- Barrel%
これらの指標は、スタットキャストにより取得された打球の種類(ゴロ、フライ、ライナーなど)や打球速度、打球角度、およびそれらに基づいて算出される打撃指標です。
- xBA(Expected Batting Average):打率の期待値
- xSLG(Expected Slugging Percentage):長打率の期待値
- xwOBA(Expected Weighted On-Base Average):wOBAの期待値
- xOBP(Expected On-Base Percentage):出塁率の期待値
- xISO(Expected Isolated Power):ISOの期待値
- Avg EV(MPH):平均の打球速度
- Avg LA(°):平均の打球角度
- Barrel%:バレルゾーンに飛んだ打球の割合
xBA~xISOは、実際の打撃成績から算出される各種打撃指標の先頭にExpected(期待値)を意味するxが付いた用語であり、スタットキャストによって測定した打球の質から予測されるこれら打撃指標の期待値となります。
たとえば、BA(打率)に対してxBAであれば打率の期待値になります。
wOBAやISOはあまり聞きなれない用語かもしれませんが、これらはセイバーメトリクスの打撃指標で、wOBAは打者が1打席あたりにどれだけチームの得点増加に貢献したのかを評価する指標、ISO(IsoP)は打者の純粋な長打力を評価する指標であり、xwOBAやxISOはこれらの指標の期待値になります。
また、後半のAvg EV(MPH)、Avg LA(°)、Barrel%はスタットキャストによって取得される打球の質を示す指標になります。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
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運の良し悪しを可視化する
野球は確率のスポーツであり、その結果は運などの外的要因にも大きく左右されるものです。
強い当たりが野手の正面に飛んでアウトになることもあれば、緩い打球が野手の間を抜けてヒットになることもあります。
もちろん、長いスパンでみればこれらの確率は一定の確率に収束するものですが、短いスパンでみればこれらの確率に偏りが生じてしまうことも十分ありえます。
このような運が良い・悪いの部分を可視化してくれるものが、xBAやxwOBAなどのx系の指標と言えます。
たとえば、実際の打率(BA)に比べてその期待値(xBA)が高いのであれば、ヒット性の打球を打っているのにそれが結果に結びついていないとも考えられます。
そのような事実を数値として捉えることができるわけです。
ですから、たとえ現在の打撃成績は芳しくなかったとしても、それは今がアンラッキーなだけ、いつかはその打球の質に結果がついてくる、そのように判断することもできるのです。
このように、様々な尺度や角度から選手の真の実力や価値を見極めようという取組みが現在のメジャーリーグでは広く行われています。
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