【書評】「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」-自分たちは大きすぎてつぶれないと信じていた人々のあやまちの物語

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新型コロナの感染拡大懸念による株式の暴落に歯止めがかかりません。

今回のコロナショックについて、一部ではリーマン・ショックの再来とも囁かれています。


リーマン・ショックが起きた2008年当時、私は学生で経済にも疎く、当時の危機的状況については後から学びました。

このリーマン・ショックの経緯について詳しく知りたいという方には、アンドリュー・ロス・ソーキン著の「リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)(下)」(原題: TOO BIG TO FAIL)をお勧めします。


本著では、当時の金融界の中心にいた人物たちの考えや行動にスポットライトが当てられており、当時の金融界の危機的状況を学ぶことができます。

原題のTOO BIG TO FAIL(訳:大きすぎてつぶせない)にある通り、著者は本著をこう評しています。

つまるところ、これは人間のドラマであり、自分たちは大きすぎてつぶれないと信じていた人々のあやまちの物語である。

引用:アンドリュー・ロス・ソーキン、リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)、ハヤカワノンフィクション文庫、2014、23pより

「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」のあらすじ

みずからの利益か、世界金融システム破綻の回避か?迫り来る未曾有の危機に際して、リーマン・ブラザーズCEO、ポールソン財務長官、バーナンキFRB議長、ガイトナーNY連銀総裁、ウォーレン・バフェット、そして巨万の富を稼ぐウォール街のトップは、何を考え、何を語り、いかに行動したか?気鋭のジャーナリストが抉りだすリーマン・ショックのセンセーショナルな内幕。800‐CEO‐READビジネス書大賞受賞作。

引用:アンドリュー・ロス・ソーキン、リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)、ハヤカワノンフィクション文庫、2014、裏表紙より

登場人物について

物語の中心的人物は、リーマン・ショックの引き金となった投資銀行リーマン・ブラザーズのCEOリチャード・ファルド、当時の財務長官のヘンリー・ポールソンやNY連銀総裁のティモシー・ガイトナー、そして商業銀行や投資銀行各社のCEOたち

いわゆるウォール街のトップエリートたちです。

本著からは、金融界のトップに君臨した彼らが必死にもがき、苦しみ、葛藤する姿を窺い知ることができます。

僅か半年の間に消滅した5大投資銀行

リーマン・ショックという名の通り、リーマン・ブラザーズの破綻がその引き金となったのは周知の事実です。

しかしながら、サブプライムローン問題に端を発する一連の金融騒動では、リーマン・ブラザーズ以外にも多くの金融機関が危機的状況にあったという事実は意外にも知られていません。


当時アメリカの5大投資銀行と呼ばれていたのが、当時の序列順にゴールドマン・サックスモルガン・スタンレーメリルレンチリーマン・ブラザーズベア・スターンズの5社。

この5大投資銀行が、2018年3月のベア・スターンズの救済合併に始まり、9月のリーマン・ブラザーズの破綻、同日のメリルレンチの救済合併、その翌週にはゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの銀行持株会社移行と、僅か半年足らずの間にこの5社全てが消滅したのです。


当時の金融界、とりわけ投資銀行を取り巻く環境がいかに危機的状況であったかについては、本著の以下の記述からも感じとることができます。

「次の手順でいく」彼はつづけた。「ただちにリーマン・ブラザーズの倒産に備えてほしい。」間を置いた。「そして、メリルレンチの倒産」また間を置いた。「AIGの倒産」また間。「モルガン・スタンレーの倒産」最後にひときわ長い間を置いて、「それから可能性として、ゴールドマン・サックスの倒産に備える。」

電話の向こうでいっせいに息を呑む音がした。

引用:アンドリュー・ロス・ソーキン、リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)、ハヤカワノンフィクション文庫、2014、16pより

エリートたちは何を考え、いかに行動したか

本著からはエリートたちの苦悩や葛藤を窺い知ることができます

本著の中心的な人物である当時の財務長官のヘンリー・ポールソンは、かつてゴールドマン・サックスのCEOを務めたまさしくウォール街のトップ中のトップ。

そのポールソンが、今回の金融危機ではこのパニックを招いた原因の一人であるといった汚名を着せられているのです。


ベアを救済し、今度は一転してリーマンを見放し、その後また方針を転換してAIGを救済。

このようなポールソン(政府)の一貫しない態度や行動が、市場の不信感や混乱を生み、株式の大暴落を招いたとも言われています。


一方で、一環性がないように見えるポールソンの行動にも、実は裏があったという見方をする人もいます。

ベア・スターンズの救済に続きリーマンの救済に動けば、またもや(自身の出身である)ウォール街を救済するのかという世間の非難を浴びることは間違いなく、そのジレンマに悩まされたとも言われています。

また一方で、AIGを救済した背景には、自身の出身であるゴールドマンを救うためであったと考える人も多くいます。

(ゴールドマンはAIGから多額のCDSを買っていたため、AIGが破綻すればCDSの損失補償を受けられず多額の損失を被る恐れがあったと言われています。 )


このポールソンとゴールドマンの結びつきの強さを示唆する供述は本著の随所に登場します。

けれどもナイズは、モルガン・スタンレーを守りたいというポールソンの意向を、もっとシニカルにとらえた。「彼がわれわれを助けようと思うのは」とマックに言った。「助けなければ、ゴールドマンを失うからだ」

引用:アンドリュー・ロス・ソーキン、リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下)、ハヤカワノンフィクション文庫、2014、283pより

エリートたちが織りなす人間模様

本著の魅力のひとつは、ウォール街のトップに君臨する(した)エリートたちが織りなす人間模様にあると言えます。

中でも、私が最も印象に残っているのは、当時の財務長官ポールソンとメリルレンチのCEOジョン・セインの関係です。


ポールソンとセインはともにゴールドマン出身で、当時のCEOと共同社長の関係。

ポールソンはセインに2年後に席を譲るとの非公式の約束を交わし、その交換条件をもとにセインはポールソンを支持し、ポールソンはゴールドマンのCEOに就任。

しかし、約束の2年が過ぎてもポールソンは職を去らず、ロイド・ブランクファイン(後のゴールドマンCEO)をセインと並ぶ共同社長に指名。

事情を理解したセインはゴールドマンを去り、NYSE(ニューヨーク証券取引所)のCEOを経て、メリルレンチのCEOに就任します。

そして、同じくゴールドマンを去り財務長官に就任したポールソン。


当時リーマンが英銀行大手のバークレイズとの交渉で最後の最後で逃げられたのに対し、同じく事実上の破綻状態にあった(セインがCEOを務める)メリルレンチがバンク・オブ・アメリカに救済買収されたのには何らかの裏があったのではないかと考える人も多くいます。

ポールソンには、セインの気持ちがゴールドマンの出資に傾いているのがわかった。セインとしても、このままメリルのCEOでいたいのだろう。しかしポールソンは、バンク・オブ・アメリカとの話を進めるようにと指示した。
「ジョン、この取引はかならず成立させてくれ」と念を押した。「もしこの週末で買い手が見つかなければ、メリルも、わが国も、神にすがるしかなくなる」

引用:アンドリュー・ロス・ソーキン、リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下)、ハヤカワノンフィクション文庫、2014、132pより

金融ノンフィクションの傑作

いかがでしたでしょうか。

本著は間違いなく金融ノンフィクションの傑作であると言えます。

リーマン・ショックに興味をもった、またはリーマン・ショックについてこれから学びたいという方にはお勧めの1冊(上下巻セット)です。


また、そのほかにこのリーマン・ブラザーズの破綻に焦点を当てたBBC制作のドラマ「リーマン・ブラザーズ 最後の4日間」もおすすめします。

(Amazonプライム会員の方であれば今(2020年3月16日時点)なら無料で視聴できますので、よかったらご覧になってみてください。)

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